日本の高校教師が教育について自論を語ってます。

高校教師の考えた教育論

現役の高校教師があーでもない、こうでもないと教育について愚論を展開しています。

「大学」9月入学

 前回も書きましたが、9月入学の発端は現在の高校3年生の訴えにあります。中学3年生や小学6年生ではありません。

 つまり、9月大学入学の「大学」がいつの間にかなくなってしまっていることがこの改革を複雑かつ不可能に見せていると考えられます。

 原点に返って考えてもらいたいのです。3月から休校になり3カ月も通常の高校生活がコロナによって奪われました。またいつ第2波が来て、さらに奪われるかもしれません。そのせいで高校生活最後の行事が中止され、高校生活が台無しになり、かつ進路に関して不公平感が募るということを少しでも食い止めたいという所がスタートです。

 まず、9月には本格化する大学の推薦入試に対応することが今年は全くできません。既に多くの大学が例年実施しているオープンキャンパスや入試相談会を中止もしくは延期しています。

 高校現場も、授業が出来ず、1学期の中間考査が無くなり、部活動がストップし、大会成績も無くなり、生徒を進学させるデータが手元にありません。校内選考で決定する指定校推薦は機能マヒを起こすでしょう。

 高校入試と違い、大学入試は夏休みに始まり、9月、10月、11月と様々な入試形態に対応していきます。最初の推薦で不合格だった生徒のフォローをして次の推薦へ、一般入試との兼ね合いを考えつつ、生徒並びに保護者に寄り添いながら進路決定していくのです。就職希望の生徒がいたら、7月には試験や面接が始まります。その対応もしないといけません。

 例年でしたら、4月から進路ガイダンスを生徒にも保護者にも実施して、外部模擬試験も受験して、志望校を絞っていきます。多くの高校は5月半ばに中間考査が始まるようになっていたと思います。本来なら、今は一番ピリピリする試験前です。1学期の中間と期末の成績で推薦入試に使われる評定平均値が決まるからです。

 もちろん、勉強だけでなく、各高校では学校行事も盛んな時期です。例えば、私の勤務高校では、今まさに6月の芸術祭に向けて、各クラスが合唱の練習に入り、クラスの団結力が高まっていく時期です。受験勉強の合間を縫って、友と肩を並べて歌う姿は青春そのものです。おそらく大学受験を強く意識する学校であればあるほど、1学期に学校行事を持ってきているはずです。それらが根こそぎ無くなろうとしています。また、間違いなく休校のしわ寄せで、このままだと2学期の行事も3年生だけは参加不可になります。入試に必要な範囲が終わらないからです。共通テストが1月にある以上は、12月には全範囲を終わらせるしかないからです。今後、夏休みも冬休みも返上してひたすら授業です。

 さらに悲痛なのは、運動部員の最後の舞台であるインターハイも予選からすべて無くなったことです。文化部のことは報道されませんが、各種大会が中止になり、高校3年間の集大成を発表する場も与えられないままなのは同じことです。これから学校が再開しても、学校生活に張り合いを持てず、横道に逸れてしまう生徒が出ないか心配です。

 競技人生が終わるわけでは無いとか慰めにもならないことを言う人がいますが、中学から高校への進学と違い、高校の場合は、本当にラストの大会になる人が多いのです。大学に進学するのは約半分です。本格的な練習をして大会に出場するのは最後と定めている生徒は何万人といます。このチームでこのメンバーでの試合は最後になるという思いが果たされないまま終わるのです、このままだと。

 小学生や中学生は中止になってもみんな進学して、また先で取り返すチャンスがありますが、高校生にはありません。だから、せめて大学入試や就職試験の時期をずらして時間を作って欲しいと訴えているのです。

 それに私は、この3年生も卒業は今まで通りに3月でも構わないと思います。12月で授業終了でなく、3月まで授業すれば3カ月の学習の遅れは取り返せます。そうすれば、中止になった行事や大会のうちいくつかは取り戻せるでしょう。秋に大会をしてもらっても、推薦入試が4月や5月に卒業してからだったら、それで良いでしょう。一般入試が6月から7月にかけて行われれば、高校を卒業して、各自で大学入試の準備をし、意識を高めて進学するようになるでしょう。もちろん、インフルエンザやコロナに怯えて受験する不安も緩和されます。

 そして、今後も大学9月入学にすれば、詰め込みと揶揄される高校のカリキュラムに少なくとも3か月のプラスが与えられます。現行では、12月に高校生活が実質上終了しているのです。それを3月まで伸ばせるのです。その3か月のゆとりがイベントの改革、例えば熱中症を避けて、安全に行える秋のインハイや甲子園を生み出す力になると私は思います。

 また、3月にいったん学校という組織を離れて、大学に進むのか、専門学校に進むのか、就職するのか、自分で自分の進路を考える良い機会にもなると思います。今はあまりにも高校の教員が進路選択に口を出し過ぎだと思います。口を出してきた張本人の私が言うのも何ですが、進路相談の名の下、如何に有名大学に合格して学校の進学実績を上げてもらうかの思惑が強く働くのです。それが巧みな教員が高い評価を受けるのも事実です。ですから、成績の良い生徒がいて、その生徒がパティシエになりたいから専門学校に進学すると言い出すと、担任は真っ青になります。周囲から「何とか大学受験を進めろ、あいつならば、関関同立に十分受かるやろ、専門学校は勿体ない!」と指導が入ります。そして、そういう進路選択になるのは、生徒が無知だからか、担任の進路指導がなってないからと思われます。

 もし、3月で卒業して、予備校に行くなり、自宅で勉強するなり、旅に出るなり、アルバイトするなりの期間を経て、担任の先生の手を煩わすことなく、卒業証明書と成績証明書だけで受験できれば自立した大人への一歩が踏み出せるのではないでしょうか。

 高校側も生徒の進路についての手続きやら書類準備から解放されて、本来の学力伸長や人格の陶冶といったことに専念出来るのではないでしょうか。大学側も高校の名前に左右されることなく、4月から8月までの間にじっくりと時間をかけて入学者選抜をすれば良いと思います。卒業してますから、いつ呼び出して、何度面接や試験をしてもらっても構いません。反対に、切れ目なく、4月からの入学を売りにする大学があるならそれも別にいいでしょう。たぶん、国公立が9月入学にすれば、4月入学にする私立大学は少数派になると思いますが。大学付属に通う生徒たちは、それこそ真に自由な5か月間です。様々な経験が積めるでしょうし、そこが付属に通わせる新たなメリットになるでしょう。

 もちろん、9月入学にすれば、海外留学がしやすくなるのもメリットですが、評論家が言うほど盛んになるとは私は思えません。敢えて言えば、外国から先生と生徒さんが来日しやすくはなると思います。しかし、コロナの影響で国際交流はしばらく下火でしょう。

 長くなりましたが、高校から大学への接続の話であった「大学9月入学」をいつの間にか小中も含めて、日本全体の学校を9月入学に変える話になり、それは法的に不可とか時間が必要とかの論議になっていると思います。

 大学に関しては、大学の裁量で9月入学には出来ると聞いています。大学側も高校側も、おそらく3月まできちんと高校生として学習させますという案に反対は無いでしょう。授業料を負担している保護者も自治体も歓迎ではないでしょうか。おまけに予備校も本来の役割を発揮できます。大学進学費用を4月から働いて貯める生徒も出てくるでしょう。

 大学のみ9月入学に出来るのか出来ないのか、そこに論点を絞っていただきたいと思います。小学校から高校までは4月から3月という区切りのままでいいので、大学の9月入学の実施可能性のみを審議していただきたいのです。

 もし、小学校から高校までも9月入学にするというならば、それはそれで何年も時間をかけて議論して下さい。私は今無理にそこは動かさなくても良いと思います。