日本の高校教師が教育について自論を語ってます。

高校教師の考えた教育論

現役の高校教師があーでもない、こうでもないと教育について愚論を展開しています。

ユーチューバーになりました

  昨年秋に、以前勤務していた高校の教え子4人と大阪で会食することがありました。ぜひ直接会って報告したいことがあるとのことでしたので、かねてうわさに聞いていた「あのことだろう」と思いながら、それまではラインでお互いにそのことには触れずに当日を迎えました。

 居酒屋の個室に入って、開口一番、「お久しぶりです、先生、聞いているかもしれませんが、僕たち全員転職しました。」と切り出しました。「で、何をしてるんや?」と訊くと、「それが、この3人とこっちの1人と別々ではあるんですが、4人ともユーチューバーをしています。」「なんとなく、そんな話が伝わってきていたけど、大丈夫なのか?」「まあ、いろいろありましたけれど、先生に報告できるぐらいにはなりました。」ということでした。

 話によると、3人組の方は、そのうちの1人が仕事に倦み疲れ、1人に相談したところ、自分も今の会社を辞めてユーチューバーになろうと思っていたんだ、一緒にやらないかということになり、3人目のアパートに転がり込んで、そこを撮影場所に使い、ついにはそのアパートの主も仕事を辞めて加わったということでした。ちなみに、この3人の学歴は、3人とも知る人ぞ知る日本のトップ大学です。一般入試の難関を突破して合格しています。

 もう1人の単独の方は、こちらも日本のトップの国公立大学から同大学院を経て、大手企業に就職するも、こちらもあまりの上司の理不尽さにあきれ果てたようで、早々に退職し、もともと大学・大学院で培っていた物理の知識を活かし、立派なユーチューブデビューを果たしているとのことでした。

 4人に共通していたのは、4人とも世間の人が羨むような一流企業にすんなり就職したが、仕事がつまらなかったということでした。というかよく聞くと、仕事そのものというよりも、上に立つ人に魅力ある人物がいなかったようで、とにかく、この先、この会社でずっと仕事をしていくモチベーションも何も無くなったということのようでした。もっと細かく聞けば、個別の事情はそれぞれあったと思うのですが、大まかに言うと、「このままやってられない」という気持ちのようでした。

 しかし、だからと言って、転職先がユーチューブというのは、また思い切ったものだと話をしたら、4人とも一致したのは、「これからは、ユーチューブの時代というか、もう、テレビの時代ではなく、これからはユーチューブが来る」と思ったという見解でした。何より、自分たちで考えに考えたコンテンツが世に受け入れられていくという様子が数字だったり言葉だったりで返ってくることに「ワクワク」が止まらないようでした。3人組の方は「SKJvillage」というチャンネルで、主に任天堂スマブラというゲームを使ったエンタメを配信しています。今教えている生徒に訊くと、クラスに5人ぐらいが知っていると言って驚いていました。最初の数カ月は「死にそう」なぐらいしか見てもらえなかったそうですが、今は任天堂にも認知してもらっており、イベント等にも呼ばれるようになってきたそうです。もう1人の方も安定軌道に入っていて、良い地位を着々と築いているようでした。

 「ところで、お前たち、そんなことして、お母さんは泣いたやろ?」と尋ねると、それぞれでしたが、「まあ、会社辞めて、こんなことしてると話したら泣かれました」という者もいました。収入はと訊くと、はっきりとした数字は言いませんでしたが、ちゃんと自立しているようでした。まあ、わざわざ大阪まで揃って遊びに来れる余裕があるわけですから、大丈夫なのだと思います。

 なりたい職業ランキングの上位にユーチューバーが挙がっていることは知っていましたが、まさかこんなに身近で、しかも、ものすごく一生懸命受験勉強して、一流大学に合格して、当然のように一流企業に就職した、絵に描いたような現代エリートの教え子が揃いもそろってユーチューバーを選択したということにびっくりしました。

 聞くと高学歴ユーチューバーは自分たちが第一号だろうが、今後はどんどん増加するだろうということでした。収入を得る方法もシンプルであり、理不尽な納得の行かない仕事を押し付けられることもなく、また、人を騙すとか人に迷惑をかけることも一切ないので、自分の力量に応じて収入が得られることに納得しているようでした。いつまで続くとか、安定しているとかを追求すれば、不安は大きいのでしょうが、手ごたえという点では面白くて仕方がないのだと思います。

 私から「そんなことしてどうすんねん!!」と怒られるかもしれないと思っていたようですが、私は話を聴いて、「これも有り」とすんなりと受け入れました。心配したらキリはないですが、話をしている彼らの顔を見ていると、生き生きしていましたし、自分の脚で立っているというようなプライドも感じました。今後のいろいろな展開を4人でも話をしていて、この業界をリードしていきたいというような夢も語っていました。

 高校生の頃から、4人とも貪欲に結果を求めてガツガツと動く方だったので、それをそのまま肯定して、「やれよ、やろうと思ったことは全部やって結果出してみよう、それが一番自信つくでえ」と煽ってきた私としては、今後の4人の動向を見守って、私の「これからはこういう連中が日本を変えていく!」と酔っ払いながら直観したことを証明してくれることを祈るばかりです。